ゴーン・ガールがめちゃくちゃよかったという話

 毎年1月1日には映画を見ているんだけど、今年は正直あまり期待していなかったんですよ。というのも、昨年の『ゼロ・グラヴィティ』がめちゃくちゃよい映画で、生の尊さと最後まであきらめない姿勢をテーマにしているというのもあり大変自分好みだったし、今まで見た映画で一番よかったまであったわけです。どうしてもこれと比較してしまうだろうと思ったし、まぁ楽しめればいいやくらいの気持ちでした。
























 今年見た『ゴーン・ガール』ですが、結論から言うとめっちゃくちゃ良かったです。ジャンルが違いすぎるので、ゼログラヴィティと比較するのは難しいですが、自分の記念に残った映画にランクインです。


 これから感想書きますがネタバレ満載なので見てしまった人ごめんなさい。というかちょっとでも気になったならネタバレなど見ずに、本編を観ましょう。お勧めです!!













 この映画のジャンルは「ミステリーと見せかけてのサスペンス」。そしてテーマは「結婚と見せかけてのサイコパス」だと思いました。


 物語は主人公ニックの行動とその妻エイミーが描く回想(日記)の組み合わせで進んでいきます。

序盤から中盤の流れ

 ある日エイミーが失踪した。警察の捜索が始まる。現場はどうも取り繕った跡がある…何か怪しい。ニックはエイミーを心配しているというが、とてもそうは見えない・・・
 一方で日記の回想では、ニックとエイミーの出会い。ニックが失職し金がなくなり衝突を起こすこと。子供が欲しいとエイミーが言うとニックに拒否される。嘘の理由を言い家を出ていく。止めようとしたら暴力をふるわれる。という流れが、エイミーの日記に添って流れていく。(※ただしこれは真実かどうかはわからないのかも)結婚した二人は少しずつ関係がおかしくなっていき、今は冷めてしまっていることが色々な角度から描かれる。


 エイミーが殺されたのであれば大事件である。話がどんどん大きくなっていく中でニックが教え子と浮気をしていたことが判明する。ニックは塩梅悪いため双子のマーゴにすら嘘をついて隠していたのだ。そしてダイニングからはルミノール反応(血痕を消した跡)が出る。家やバーの名義がエイミーだったり、エイミーに掛けられていた生命保険の額が増えていたり、エイミーが妊娠していたということも判明する。エイミーは殺されたのか?殺したのはニックなのか?普通に考えればニックがエイミーを殺したように見えてしまう。女性からすれば、ニックいい加減にせーよという感じだろう…


 ところが、物語中盤でエイミー視点の回想(事件当日)が流れてから話が一気に進展します。エイミーは生きてました。それどころか、自分が殺された偽装工作を行って、ニックを死刑にしようという計画を立てていたのです。ニックの浮気を偶然?見かけた時に犯行を計画し、数々の計画を実行。上で判明した事実はすべてエイミーの工作だったのです。シナリオでは1〜2か月後には自分も死んで、ニックが死刑になる・・・というものでした。何ということだ!!
 という感じでここまでは、完全にミステリーとして話が進んでいきます。問題?はここからです。


エイミーの本性が顔を出す

 さてこの辺からエイミーの本性が顔を出していきます。
 エイミーは死ぬまではやりたいことをやると考えているようで、ジャンクフードをむさぼったり、プールでバカンスしたり、それなりに楽しんでいる模様。で、その時に知り合った女性と夜に酒を飲みながらテレビを見ていたところ、自分の失踪がニュースで流れました。ニックがエイミーを殺したのではないかという内容で、完全にニックが悪者。エイミーのシナリオ通りです。ところが、知り合った女性はそのニュースを見てこんな感じの事を言うのです。 


「この女は嫌い。お高くとまった女が3流の男に引っかかっただけのこと」


 それを聞いたエイミーは、彼女がトイレに行った隙に飲み物につばを吐きかけ、部屋に帰った後カレンダーに張っていた「死ぬ予定日」の付箋をはがすのです。


 ここで「あれ?」って思うわけです。なぜエイミーは死ぬのをやめたのか。
 もしエイミーが夫の浮気に傷つき復讐を計画したなら、関係ない女の感想を聞いて計画を変更するの変ではないだろうかと思うわけです。


 この後、エイミーは大金を持っていることがばれて所持金を強奪されてしまいます。本来ならば大金持っているのがばれた瞬間に逃げるべきだったのに、指紋などを残し自分の跡がつくのを避けるために残らざるを得なかったのです。所持金がなくなり、計画を前倒ししなくてはいけない状況になります。しかし自殺はしません。エイミーは死ぬのをやめたのです。




 エイミーは昔付き合っていた男に連絡し、かくまってもらうことになりました。旦那に暴力をふるわれていると、助けてほしいと真っ赤な嘘で訴えて。にもかかわらずあからさまに男に気が無いエイミー。彼女が男をただ利用しているだけなのは日を見るより明らかです。


 そんな彼女はテレビを見て驚愕します。ニックがテレビに出演し、自分が浮気していたこと、今なお妻を愛していることをカミングアウトするものでした。エイミーに向けて帰ってきてくれとか愛しているとか言ってますが、これも真っ赤なウソでしょう。ニックはエイミーに凶悪殺人犯に仕立て上げられそうになっているわけです。見つけたいとは思っているけど、一緒に暮らしたいとは思っていないはずだし、今の状況を良くするための演出なのは明らかです。それを見たエイミーは何をしたかと言うと…


 まず、髪の色を戻し、セクシーな服に着替えて気があるそぶりを男にアピールし始めます。男が仕事に行ったのを見届けると、手に縄をこすりつけて痕をつけ、服と股間にワインを塗り、まるで強姦者から逃げ出すようなポーズで防犯カメラの範囲で演技をし始めます。最後は帰ってきた男をベッドに誘いSEXを始め、男が射精した瞬間にカッターで喉を切り絶命させ、まるで監禁者から逃げてくるかのように、本当に何食わぬ顔でニックの元に帰ってくるのです。前進血まみれのままで。


 

エイミーがサイコパスであると仮定する

 助けてくれた男は確かに自分の堅い考え曲げないようなところはあったかもしれないけど、決して無理強いはしないと言っていました。手紙が好きで一図で不器用な男なのだと思います。なのでニックの元に帰りたいだけなら殺しなどせずにお願いすればよかったのではないかと思います。


「なぜ自分を助けてくれた男を殺してニックの元に帰ってきたのか理解できない」


 普通の人はこう思うのではないでしょうか。(自分も思った)
 これについては、エイミーがサイコパスであると考えれば説明がつきます。というか、今までのエイミーの行動も(全く意味が変わってくるが)筋が通るようになります。この映画は最初こそミステリーですが、実は一人のサイコパスに全米が揺れるのを描いたサスペンスなのでしょう(しかもサイコパスだとばれない)。もっというと普通の愛情を持った人からすればサスペンスだけど、サイコパスからすれば勝手に周りが大騒ぎするコメディとも言えるのかもしれないし、最後の怒涛の展開から真の意味が分かるという流れはミステリーとも言えなくもないのかもしれません。

エイミーがサイコパスと仮定する2

 話がそれました。エイミーがサイコパスだと仮定します。そうすると説明がつくところや、色々と意味が変わってくるところが出てきます。


 まず、エイミーとニックの出会いから。
 エイミーがサイコパスなら愛情がありませんので、ニックと近づくことで何かメリットがあると考えたはずです。自分は「完ぺきなエイミー」との対比が、ひとつ結婚の動機としてあるのかなと思います。
 というのも、ニックがエイミーにプロポーズしたのはエイミーの母が描く「完ぺきなエイミー」が結婚した日と同じだからです。


 エイミーは「常に完ぺきなエイミーと自分は比較されてきた。でも自分は期待にこたえられなかった」と、ニックに訴えかけます。これはサイコパス特有の同情を誘う行為です。もっと言うと利益の為ならサイコパスは平気で嘘をつくので、期待にこたえられないいう点は同情を誘うための嘘かもしれません。(エイミーが本当にできない子なら、母親は本を書き続けるでしょうか?)
 ニックの告白は普通の人ならグッとくるものでしたが、エイミーからするとそうするように仕向けた結果なのかもしれないし「こういう演出であれば周りも羨むだろう」くらいに思っていたのではないでしょうか。


 次にエイミーの日記に書かれた回想について。
 この回想は映像つきで流れているので本当に起こったことを表現しているのかなと思う反面、エイミーがニックに罪をなすりつける目的で作った日記をそのまま再現しているだけなので、嘘が混ざっている可能性も十分にあるなと感じます。現にこの日記は、ニックの証言と大きく食い違っている点があります。


 一つは暴力。エイミーの日記の回想では、出かけると言ったニックに付いていくと言ったところ逆上され暴力をふるわれたシーンがありました。しかし、ニックが警察に事情聴取を受けていた時、彼は暴力は決して振るっていないと言ったのです。
 もちろんニックが嘘をついた可能性もあります。しかしどうでしょう。ニックは根が正直な人間として描かれています。直前に行ったインタビューのリハーサルでも、嘘をついたとたん堅さが残りやり直しの嵐。ところが「本当に申し訳なかった」という正直な気持ちをそのまましゃべることで堅さが取れ、素晴らしいインタヴューが出来たというシーンがありました。
 また、事情聴取の前も「俺は嘘をつかない」と宣言し「この筆跡は妻のものです」とか答え、弁護士をあきれさせるような展開の中、暴力をふるっていたかという質問に「暴力など振るってるわけないだろう!」と迷いなく答えたのです。マーゴに見え見えの嘘をついて余裕でばれていたような男が、サイコパスが嘘をつくようにすらりと嘘が出て、おまけに顔にも出ないということは考えづらいです。そういうことが出来ない男として描かれています。


 従って、ニックは嘘をついていないと考えます。むしろ嘘をついた可能性の高いのはエイミーの方です。暴力をふるっていないという証明は出来ないし、暴力をふるわれてたと言えば都合がよく、しかもサイコパスなので嘘をつくのに全くためらいが無い。本当に暴力をふるわれていたなら診断書や跡を写真で撮るなどするでしょう。この上ない追い打ちになります。


 二つは子供の話。
 日記では妊娠したと言ったとたんニックの態度が変わったとあります。回想でも彼女との夜を拒否してたし、やりたい時にやって満足的なものもありました。妊娠に対して否定的でSEXはあくまで性処理だったと。ところが事情聴取でそれを指摘されたとたん、ニックはそれは逆だと指摘するのです。話が完全に食い違っています。さて、子供を作りたくなかったのは本当はどちらなのか。
 

 これに関してはほぼ間違いなくニックが本当の事を言っていると考えます。
 根拠の一つは精子バンクに入っていたこと。同じような内容をマーゴに問い詰められた時、子供を要らないと思ってるやつがこんなのに入るか?とバンクの結果?を突き付けるシーンがありました。また、バンクの精子を利用し妊娠したとエイミーが脅迫するシーンあもあったため、バンクに入っていたのはほぼ確実です。子供を作りたくない人が精子バンクに入るのかという話です。


 もう一つの根拠はラストシーンです。ニックはエイミーを告発するかさんざん悩み、最後は共犯者として仲のいい夫婦を演じる道を選びます。自分を死刑にしようとし、実際に人を殺し、それを平気な顔をして隠している犯罪者と、同じ屋根の下で家族として暮らし続ける道を選んだのです。
 その決め手となったのは子供です。自分の子を不幸にしないためにその道を選んだのです。そんな人間が子供を作りたくないなどと言っていたはずがないと、自分はそう思います。


 一方でニックに変な気を起こさせないためにあえて妊娠した。と考えれば、エイミーが妊娠に至った理由も納得できます。そう考えるとニックも浮気したのはだらしないとはいえ、少し同情します。夫婦仲が冷めた原因の一つにSEXレスがある可能性が高いからです。


 

 最後にエイミーが殺しをした理由について。
 これはもう明らかでしょう。単純に都合がよかったから殺したのです。エイミーからすれば食べ物も住むところもある今の環境も悪くないでしょう。しかし、凶悪なストーカーから逃げてきた悲劇の主人公となり、だれもが羨む理想的な夫婦という称号を得るチャンスを目の当たりにしそれを選んだのです。
 自分を助けてくれた男に全てをなすりつけて、殺すことも全く気にならない、まさにサイコパスの発想です。


 別荘でニックのインタヴューを観た時、普通であれば自分をこんなに思ってくれていたのかと感動してもおかしくないところですが、彼女はそんなこと考えていません。
「この男(ニック)はまだ利用できるじゃないか」
「この男(ニック)が作ったシナリオに乗れば自尊心を満たすことが出来るじゃないか」
「でもこのまま帰れば全部ばれるので目の前の(助けてくれた)男に罪をかぶせて殺そう」
と、テレビを食い入るように見ていた時、そう考えたのではないでしょうか。そしてそれを実行した…
 普通の人間なら考えられないですが、サイコパスならむしろ極めて合理的な行動を行ったと考えられます。


 この、エイミーがサイコパスだと判明する瞬間こそがこの物語の最高潮・トップスピードであり、ものすごいスピードで今までの考えが全部ひっくり返るあたりはまさにミステリー。そして、死の恐怖が本当に身近に迫っている感覚…現実ではありえないレベルではないという意味で、真の恐怖を感じる演出はサスペンスやホラーに通じるものがあります。何という作品だ…



その他の感想

・ニックと双子のマーゴはとても良いキャラクターだと思いました。ニックが浮気をしていたと判明していた時はfuck!!fuck!!言ってましたが、結局最後まで絶対見捨てないという点、完全に巻き込まれているのに全く文句を言わず、自分の事のようにふるまうあたり、絆が強く描かれていました。
 最後、ニックが子供の為に告発はやめるとマーゴに打ち明けた時、一生良い家族を演じ続けると決心した時、彼女は泣いていました…


・警察の捜査はすごくいい線いってました。事件性が高いが、何か作られたものを感じると言い、補佐がさっさ逮捕すればいいのにと言う中、まだ証拠が無いと言って捜査を続けるあたり冷静だなと。
 しかしその後がまずかった。ニックが浮気をしていたということが判明するや否や、感情的になって逮捕状を出しちゃう(別れた男も浮気していたらしい)。結局保釈され、エイミーも戻ってきたため誤認逮捕となり、エイミーが怪しいと気付くも時すでに遅し。警察のメンツをつぶした彼女には発言権を与えられず、真実は闇の中。


 結局、浮気がトリガーとなり感情的になったことがクリティカルミスだったということですね。丁寧でするどい操作をしておきながら、大事な大事なところで感情的になってしまうというのは、言い方悪いですが優秀な女性をうまく描いているなと思いました。


・エイミーが浮気を発見した時
 エイミーが浮気を発見してしまうシーンがありました。普通の人ならショックでしょう。でもサイコパスなら屈辱的で腹が立つとは思うけど、あまりショックじゃないと思います。
 彼女はその時復讐を決心したとありましたが、実際はどうなんでしょうね。というのも、復讐するんだったら、なぜ浮気相手を巻き込むようなシナリオにしなかったのでしょうか。
 あと、自分が最後死ぬシナリオにしたのもちょっと変だなと思いました。サイコパスっぽくないですね。小娘に浮気された腹いせなら、浮気をしたやつを不幸にして心底見下すのを目標にするのではないでしょうか。死んでしまっては見下せないですし、見下した後わざわざ死ぬ理由あるんでしょうか。
 サイコパスなのは間違いないので理解力足りないだけだと思いますが。