惡の華9巻感想その1

惡の華9巻の感想を書きます。ネタバレ全開です。


9巻は非常に心理的な描写が多く、こういう行動を起こしたからこうだとか考察しづらく非常に難しいですが、
描かれている心理描写は非常にシンプルかつ奥深いものだと思っています。とても面白かったです。
変なことばっかりあるいは、当たり前のことばっかり書くかと思いますが、ご容赦ください。しかも糞長いです。サーセン



43話についてその1

8巻のラストで春日君は佐伯さんにボッコボッコに言いくるめられます。
そのせいか、春日君は何にも手を付けられないようで、まるで抜け殻のようです。


そんな春日君は、常盤さん(+春日君)の悪口をベラベラとしゃべってるJK集団と遭遇してしまい、さらに常盤さん本人も登場して軽い修羅場に。
ところが常盤さんは慣れたもんで、JKと「適切なやり取り」をしてあしらいます。


自分は、このシーンで重要な意味を持つことが1つあると考えました。
それは、常盤さんは「適切なやり取り」に長けているという点です。


たとえば常盤さんがJKと遭遇したとき、JKは「大丈夫ー?コウジ君のこと」とか、まるで心配しているようなことを言い出します。
常盤さんはJKたちが本当のところ「常盤さんとコウジ君がうまくいかなければいい」と思っていることに気付いているはずです。
ところが常盤さんは感情的になったり臆することなく「コウジとは仲直りしたから」と返すのです。
心配している体のJKに、大丈夫だよと返す。これは適切です。しかしこれは建前で、本当の所は「残念。コウジには手を出せないよ」というJKに対する威嚇が込められています。(加えて春日君に対するメッセージも込められている)


常盤さんは、本心を隠し適切な行動を繰り返すことで、暗に本心を伝える、あるいは本心を隠し続けるというスタンスをとっています。
これから先、あるいは8巻もそうですが、彼女は本心を決して口に出しません。適切と言える行動を繰り返します。
ところが、その適切な行動の裏に、彼女の本心が見え隠れする瞬間があります。その瞬間を捕まえるのが9巻の醍醐味なのかなと思います。






43話についてその2

常盤さんはJKをあしらった後「なぜ土曜日に電話に出なかったのか」を聞きます。
それに対してキョドって言い訳する春日君。「いつも以上に目が死んでいる」という常盤さん。
自分は、常盤さんは春日君を観察しているなと思いました。「いつも以上に目が死んでいる」と気づくほどに。


その後、春日君は小説の進捗を常盤さんに聞きます。それに対して常盤さんは「うまくいかない」とか進捗が思わしくないという弱気を吐きます。
この、常盤さんの「小説」というキーワードは、春日君と常盤さんのつながりを揶揄していると自分は考えます。
つまり、常盤さんの小説を春日君が気にかけるという事は、あなたのことを気にしていますというメッセージであり、その返事もまた、春日君に対するメッセージだと考えます。
「小説きっと面白いから」と励ましてきた春日君に対し、常盤さんはネガティブな返事をしました。これはいったいどういう意味を持つのでしょうか。


常盤さんは、彼氏が謝りたいと言っていることを春日君に告げます。嫌なら来なくていいと。ところが、春日君は行くと答えます。「そうやって逃げ続けたら、いつまでも同じだから」なんて言っちゃいます。
それに対しての常盤さんは、まるで「値踏みするような目」を向けます。まるでそのセリフの真意を量っているようです。


茶店で彼氏の謝罪を受ける春日君。ごめん!!とか言ってますが、彼氏は反省なんてしていないでしょう。常盤さんは彼氏の態度に腹を立てているというスタンスです。従って、彼氏が春日君に謝罪をしたら常盤さんは許さざるを得ません。
春日君も許さないとは言いずらいでしょう。この反省会はショーです。彼氏が常盤さんと仲直りするための。






43話についてその3

謝罪イベントの帰り道、常盤さんと春日君は2人で帰路。途中で常盤さんは春日君に語りかけます。


「喫茶店のアルバイトをやめようと思っていた」


「私のことバカだと思う?」


「何かあった?先週までと別人みたい」


それに対して春日君はこう返します
「常盤さん。小説…絶対最後まで書いてよ」


え?


常盤さんの3つのセリフは一見つながりがありません。特に2つめは意味不明に感じます。
さらには春日君の返しも意味不明です。何かあった?と聞かれて、小説書いてよって何?って思いませんか。
これに対しては、先ほど述べた「裏にある本心」というのが紐解くカギかと思います。一つ一つ見ていきます。


まず「喫茶店のアルバイトをやめようと思っていた」というコメントですが、
そもそもなぜ彼女がバイトを辞めようかと思ったのかというと、自然に考えれば、ケンカした彼氏と同じバイトは気まずいということでしょう。
このセリフには、彼氏と仲直りした結果、やめるのを思いとどまったという意味が込められているからです。
もしそうだとすれば、常盤さんは「彼氏とのつながりを断とうとしていた(今はできなくなったけど)」と解釈できます。


2つめ「私のことバカだと思う?」ですが、これはなんでしょうか。彼女は特にバカなことなどしてないように見えます。
ところが、コメントから察するに、常盤さん本人は自分のことをバカだと思った、もしくはそう思われてもしょうがないと考えたようです。
これは仮定ですが、常盤さんが自分の気持ちに嘘をついているとしたらどうでしょうか。
「一見、彼女は適切な行動を繰り返しているように見えるが、その実、全く別な展開を望んでいる」とした場合、自分のことが滑稽に映るというのは十分に考えられます。というか、それ以外に彼女が自分のことをバカだと思う理由があるでしょうか。


3つめ「何があった?先週までと別人みたい」ですが、これは単純に気になっているのでしょう。
「佐伯さんと会った後、春日君の態度が変わった理由」が気になるという事です。気にならなければ聞かないでしょう。


さて、まったくつながりがなかった3つのセリフですが、なぜそのセリフを発したのかという観点から考えると一つの線が見えてきます。
・彼氏と距離を置こうとしていたが仲直りした
・しかし、まったく別の展開を望んでいる
・そして、春日君のことを気にかけている
つまり、この3つのセリフは春日君に対する好意という意味で一貫しているのです。


それに対して春日君は「常盤さん。小説…絶対最後まで書いてよ」と返しました。これは、あなたとの繋がりを絶ちたくないというメッセージに他なりません。
春日君の返答は一見意味不明ですが、とんでもない。意味不明どころか、常盤さんが発していたメッセージを理解し、同じ手段で適切な返答をしていた可能性があります。


ところが、春日君のラブコールに対し、常盤さんは「今は一人で頑張りたい」と返しました。今までの意訳が正しいとするならば、これは常盤さんからの警告に他ならないと思います。
「このままでは二人の関係は終わる」


そして最後、別れ際に春日君は常盤さんを呼び止めます。「常盤さん!」
常盤さんは、驚きの表情で、頬を赤らめ、期待を込めるような表情で振り向きます「・・・何?」
それに対して春日君は、下を向きながら「いや・・・なんでもない」と答えるのが精いっぱいでした…


これら一連の流れから、常盤さんと春日君がお互いのことをどう思っているのか、そしてお互いがそれを認識している可能性が見えてくるのではないでしょうか。
しかし、このままだと常盤さんの警告通り2人が引き裂かれるのは時間の問題でしょう。常盤さんには彼氏がいて、常盤さんも春日君も自分の本当の気持ちを素直な言葉にしていません。


この43話は劇的な展開を迎える44話の伏線となっており、また、44話を引き立たせる非常に濃厚な話になっていると思いました。
ていうか44話はもうちょっと短くまとめようと思います…


長くなってしまったのでつづく