半沢直樹がクソ面白い(感想)

 惡の華9巻がいつのまにやら発売されていて、買って読んだので感想書こうと思っていたら、昨日職場の先輩から「嫁と子供がお盆で実家に帰って暇なので、餃子おごるから来なさい」という連絡があり、逝ってきたんですよ。


 で、どういうわけか、半沢直樹を観る流れになり、10時から翌朝4時までぶっ続けで見ました。ホント面白かったので感想を書こうと思います。1〜5話までのネタバレを含みます。


感想

 半沢直樹というドラマが高視聴率をたたき出しているというニュースは小耳にはさんでいて、でもTVを見ることがほとんどない自分はスルーしていたわけですが、気にはなっていました。実際見て感じたのは「ほんとによくまとまっていて爽快なドラマだな」というものでした。そりゃこれは流行るわと感心しました。


 自分が半沢直樹を観て面白いと思った要素は大きく分けて3つ。
1.主人公「半沢直樹」が非常に魅力的である
2.動機付けがシンプルでキャラクターにブレがない
3.王道な展開で最後は爽快。

1.主人公「半沢直樹」が非常に魅力的である

 半沢直樹の像をビジネスマンの視点で表現するなら「理想的な上司であり、理想的な部下」というのがぴったりだと思う。部下のミスに対して怒鳴るようなことはしない。過負荷と判断したらかばい、積極的にコミュニケーションもとる。一方で責任感も強く、できないことはできないと言い、調子の良いことは言わない。非常に弁が立ち、経験と実績に裏付けされた発言の説得力はかなり高い。にもかかわらず、完璧超人のような他人を寄せ付けない空気はない。男性だけではなく、女性からも接しやすい紳士である。


 そんな彼が、理不尽な展開に巻き込まれ、ひどい目に逢い、負けるかと足掻き、もがく。まさに底辺まで追いつめられてしまう。それを見ている読者はもちろん、登場人物も、なんとかしてあげたいと考える。その結果、もうだめかという展開から逆転し、また叩き落されるもなんとか持ち直し、手に汗握る展開を繰り返し、最後の最後に大逆転する。
 まるでハリウッド映画のような展開で、まさに王道である。この半沢直樹という主人公の魅力がこれらを織りなしているのは間違いと思う。



2.動機付けがシンプルでキャラクターにブレがない

 半沢直樹は非常に優秀なキャラクターとして描かれているが、同時に非常に人間的なキャラクターとしても描かれている。彼の非常に人間的な部分を感じさせるファクターとして「復讐」と「慈悲」が挙げられる。そして「復讐」と「慈悲」という、一見矛盾しているファクターが、半沢直樹という人格できちんと止揚されているのが良い。一言でいうなら彼はクールに描かれている。ズバリカッコいい。


 彼は過去に父親を失っている。死因は自殺で、自殺に追いやったのは銀行マンである。そして彼は、父を殺したと言える銀行にあえて就職する道を選ぶのである。この過去が彼の強い「復讐心」の背景となっており、彼のあきらめない姿勢や意地の根拠として強い説得力を生んでいる。
 たとえば、支店長は半沢直樹に責任をすべて押し付けようとするが、それに対し、やられたら倍にして返すと奮起し、抵抗をし続ける。普通の人間なら、権力を盾に圧力をかけられたらつぶれてしまうだろうが、彼はあきらめない。それが彼の人間的な魅力となっている。


 また、父を失った過去は「慈悲」の根拠としても成立している。というのも、窮地に追い込まれた半沢工場が立て直すことができたのもまた、銀行のサポートがあったからなのである。また、彼の父は、生前「機械のような人間にだけはなるな」と言い残している。彼が銀行に就職した動機に「復讐」は間違いなくあるが、就職した後の彼は「復讐」にだけ囚われていない。むしろ、父を追いやった銀行マンのような人間にだけはならないという意思を、さまざま行動から感じるのである。


 たとえば、5話最後、支店長を打ち負かした後、支店長を告発するかの選択を迫られる。というか、これは本来選択にすらなっていない。支店長が引き金を引いた一連の事件によって、多くの工場が倒産しており、つまり、多くの家族が失業している。支店長は家族だけは見逃してくれと嘆願するが、虫の良い話である。彼が横領した5000万は多くの人の5000万なのだ。さらに、半沢直樹は支店長を許さないと宣言している。支店長のお涙は見れば見るほど不快になるものである。支店長に復讐するという視点で考えると、告訴しないという選択肢はない。
 ところが、半沢直樹は告訴しないという選択を選ぶ。見返りは自身と仲間の出世である。半沢直樹は目の前の「復讐」ではなく、その場の感情に任せた「慈悲」でもなく、最終的に銀行に対しての「復讐」を行うための近道としての出世と、味方の安全、そして支店長の家族の不幸を回避するという「慈悲」の両方の獲得を選んだのである。この行動はいい意味で予想を裏切ってくれて、とてもクールでカッコいいと感じさせてくれた一コマだった。


 ほかにも、半沢直樹が融資の取りやめを行うかの交渉を、某工場で行っているエピソードがあったが、これも非常によかった。
 その工場ではチタン製の部品を手作りで作っており、半沢直樹は工場の責任者に「現在は赤字だが持ち直して見せるから融資をしてほしい」と頭を下げられる。半沢直樹は部品製作ラインのオートメーション化が融資の条件だったはずとつきつける。それに対して工場長は、部品のオートメーション化はポリシーに障ると断ってしまう。
 工場は赤字であり、それを修正するための条件も断られたことを考えると、普通に考えれば融資を断るべきである。半沢直樹は「復讐」を果たすために出世したいと考えている。成績を下げるリスクを冒すのは非常にまずい。冒険するメリットがないのだ。
 しかし「慈悲」の観点から考えると、この工場を見捨てるわけにはいかない。なぜなら、自分の父がかつておかれていた状況とこの工場の状況が被るからである。ここで融資を断ったら、父を自殺に追い込んだ銀行マンと、自分が同じという事になってしまう。つまり彼は、一見、矛盾した2者選択を迫られているように見える。


 これに対して半沢直樹は、特許に関する手続きを徹底することを条件に融資するという提案を行う。この工場が作っている部品の品質は高く、業績は回復するであろうと判断したのだ。一方で、部品の品質を武器にするのであれば、この工場の技術が盗まれてしまったら台無しになる。従って、技術を持っているという武器を殺さないために、特許の外堀を埋めるよう指示したのである。
 つまり半沢直樹は、知恵を絞り「復讐(のための出世・成績)」と「慈悲」の両方をとることを選んだのである。さらに言うと、半沢直樹は打ち合わせが始まった瞬間に、特許の資料を下さいと要求し、確認し次第工場の見学を要求している。つまり、「打ち合わせの前」から、この商談の落としどころ…「生産している部品の品質で勝負する」というシナリオを描いていたことが伺える。
 そして、そう考えると、オートメーション化をしないのかという質問の意味が変わってくる。半沢直樹はオートメーション化を迫ったのではない。作っている部品の品質にどれだけのこだわりと自信を持っているのかを確認したのだ。
 このエピソードひとつで、半沢直樹が持つ信念と、それを実現するだけの知恵と行動力があることをうかがえる。


 自分は、半沢直樹という人間の感情や行動の理由がとてもよくわかったし、それが主人公への感情移入につながっているのだなと感じた。それは、彼の過去という根拠が、シンプルで強い説得力を生んでいるからであり、このシンプルさが物語の一要素となっているのだなと感じた。



3.展開がドラマチックで最後は爽快。

 半沢直樹はなんどもなんどもピンチに陥るがそれを間一髪で脱していく。ところが、逆転劇の決め手となるほとんどが、味方のサポートによるものである。これが良い。


 たとえば、支店長のカバンの中にあると思われる決定的な証拠をあさるという展開があるのだが、それをサポートしたのは半沢直樹の部下である。ばれたらただでは済まないし、彼がそれをしてもメリットはない。また、証拠を見つけるも支店長が戻ってきて大ピンチとなるのだが、そこもまた、間一髪で別の部下が支店長に声をかけ連れ出すことで救い出す。その部下は半沢直樹を監視するよう支店長に命令されており、人事をちらつかせながら脅されていた。そして、これ以上半沢直樹に協力できないと宣言していたのだ。彼は半沢直樹のピンチを目の当たりにし、命令に逆らい、支店長に逆らう選択肢を選んだのである。
 窮地に陥る半沢直樹をサポートするという事は、自分も巻き添えを食う事を意味する。つまりただ手伝っているのではなく、身を挺しているということになる。繰り返すが、半沢直樹をサポートすることによるメリットはほぼない。
 

 また、決定的な証拠を手に入れるため、ミキ(犯人の愛人)を写真で脅すも失敗するという展開があるが、これを救ったのは半沢直樹の妻ある。といっても、妻は直接助けたわけではなく、短期間のアルバイトをし、旦那に鞄をプレゼントしただけである。脅しに失敗した半沢直樹は、家に帰宅。その後妻にプレゼントをもらい、そのためにアルバイトをしたのだという事を知り、働いて得たお金でプレゼントを買うことに意味がある、女が働くということをバカにしないようにというニュアンスのことを言われ、ハッとする。そして再びミキの元へ出向いて、ミキを1経営者として対等に扱い、融資の提案をする。「真っ当な経営者になりたいなら銀行から金を借りろ。汚い金を使うな。お前なら良い経営者になれる」この「営業」がクリティカルヒットとなり、決定的な証拠を得ることに成功する。
 「営業」後ミキは半沢直樹にこう言う「まるで人が変わったみたい。何かあったの」それに対し半沢直樹はこう答えるのである。「カバンが新しくなった」


 彼らが、半沢直樹に献身するのは、慕っているからであろう。それだけの魅力が主人公にはあり、その魅力に説得力があるからこそ、半沢直樹を救おうとする人たちの行動にも説得力が生まれ、感動を生むのである。